2010年に公開
また、起業独立のご相談がありました。
計画の内容といえば、無謀そのものです。
話を聞いているうちに、いろいろと思いが頭の中を駆け巡ります。外から見るほど自営はやさしくありません。
夢や希望を胸に努力することはもちろんですが、
同時に最低、最悪の事態も常に予測していなければなりません。「一代で財を成す」
かっこいいです。憧れます。どんな風に会社を育てたのか興味があります。
まだ、若いころ出会う経営者に素朴に問い掛けたことがあります。
みんな、ニヤニヤと笑うだけです。
そして、こう言います。
「まず、やってみろ。そうすれば解かるかもな。」すべてではありませんが、少し気が付いたことがありました。
一代で財を成すには、人に言えないことをしてきたんだなぁと。
税申告、社会保険、雇用保険、労災、許認可事業に対する黒に近いグレーな対応、
労働法関係については、ほぼ黒。債権回収、債務履行の立場の違いによる二枚舌、
下請けの飼い殺し、競合他社に対する風説の流布や妨害行為、
人道に反するともいえる手法による企業買収や吸収、資産所得や運用でも脱法行為を活用。
議員はもちろん、商工会、ロータリークラブへの参加による談合と。。。
残念なことに、みなさん今はいっぱしの経営者ですが、いくつかは思い当たる節があるようです。
金に汚い奴、業界の嫌われ者と後ろ指を指され、陰口をたたかれても、もてる人脈をフル活用して、
ある時は、金を、ある時は、女性を、ある時は、チカラを使い。。。みなさん、多くを語りませんでした。
それぞれに苦渋の選択だったのかもしれません。
自営といえど、経営者といえども自身の思い描く理想の企業へと成長した例は、
本当に一握りなのかもしれません。
いい人ほど社員の首が切れません。筋の通る生き方をしている人ほど嘘をつきません。
バブル後、少なくない尊敬すべき経営者には会う機会がなくなりました。さて、件の方が、計画している事業は、個人経営の規模ではありませんでした。
初期投資、2千万程度が必要な業種だとのことです。
しかし、自己資金は...
箱=土地、建物が必要ですが、不動産等の資産もありません。
また、参入を目論む業種は未経験です。
共同経営者はもちろん、経験豊富で信頼できる片腕もいません。
この時点でほぼアウトなのですが...市場調査データはありません。
売上予測、収益予測も根拠がありません。
そりゃそうです。どこで開業するか未定ですし。
借入金から逆算しておおよそ必要な売上と収益が算出されます。
算出された経費の上限から人員や箱の規模が予測されます。
しかし、市場調査データがなく、業界水準のデータもありません。
つまり、何もわからない状態です。
考えてみると、起業を考える方の多くはこんな感じかもしれません。
人生におけるリスクや自身の労働力を考えれば、公務員がベストでしょうから。ほとんどの方に芽生える起業の目的は、良くも悪くも、「一攫千金」なのかもしれません。
これは、大事なことで否定するつもりはありません。
アメリカはもちろん、中国人、韓国人の楽観的な、そして成り上がりへのハングリー精神は、
突出した才能を核に全体をボトムアップする可能性を否定できません。どうしても、企業の国内雇用は減少していきます。
公務員の削減が声高に議論されていますから、拍車をかけることになりそうです。
今の時代は、大卒であっても非正規雇用に甘んじなければならないご時世です。
内需拡大には、地域特性に重点をおいた特区の拡大と、
インフラを活用した秩序ある地方分権と起業が不可欠となります。
起業精神有無の差異は、日本の国際競争力が衰退する要因になるかもしれません。わたしは、こう言いました。
「企業は人だと思う。経営者、従業員次第みたいなもんさ。」
「かっこいい仕事は金にならないもんさ。金儲けならかっこ悪い仕事だよ。
そして需要と供給のバランスがとれていないところがチャンスだから。」
「企業が関わった先は、どんな業種でも最後は、必ず人に行き着くものさ。」
「計画している事業を立てるでも、考え直すでも、
最終消費者の笑顔を想像できることが、モチベーションの維持に大切だと思う。」
「それと、どんな業種でも、重要なのは信用だ。
企業は、継続することも大事。そのために必須なのが信用だよ。」
「企業経営ってば、今思い浮かぶことはこんな感じかなぁ。
事業を継続することで雇用を創出し、利益を社会に還元する大義を忘れずに苦労してくれ。」初めて、目付きが変わったと感じました。
明らかに考え直せというダメ出しですから不快だったようです。
おそらく、聞きたかったのは開業資金の普通じゃない調達手段、軌道に乗るまでの金融と、
広告宣伝の手法、適当な箱の心当たりとかそんなとこだったのでしょう。自営起業と言うのは、本人が考えている以上に親兄弟、友人に負担を強いることが少なくありません。
「一攫千金」を目指しギラギラとした眼は、頼もしい半面、危うさを感じます。
しかし、利害関係にある取引業者、そして消費者は、敏感に「金儲けの意図」を察知するものです。
人が去っていく企業に将来は、ありえないものです。誤解や反感を恐れてはいません。
長い付き合いの若い知人ですが、自営を志すと誰しも走りすぎてしまうものです。
忠告や警告よりも賛成意見が心地よくなるものです。
小手先の対処方法や経営戦略などの理論は、何とでもなるものですが、
理念や大義を疎かにしてしまう経営者は、少なくありません。
経営者の成功が個人資産の構築なんてものなら、私は見守るだけしか出来そうもありません。
いずれ博打と起業は、違うことをわかってくれるでしょう。
そして、いずれかの場面で私が必要になることもあるでしょうから。